春が来たら、桜の花びら降らせてね


「ここで待ってろ」

私は返事の代わりにコクリと頷いた。
リュウ坊を私に預けて、夏樹君はご飯を取りに裏の控室へと行ってしまう。

急に、リュウ坊と私のふたりきりになる。
夏樹君がいなくなった途端、春なのに寒さを感じた気がした。

そんな寂しさを埋めるように、私はリュウ坊を見つめて『これからご飯だって』と心の中で声をかけてみる。

「わふっ」

喋れない私の気持ちを、動物はなんとなく感じ取ってくれるから好き。

この人を知ろうって気持ちが、あるからなんだと思う。

利害で関係を築く人間より、ずっと綺麗な生き物だ。

しばらくリュウ坊と見つめ合っていると、「あれ、夏樹いなくなった?」と先ほどまでレジの対応をしていた琉生君が、隣にやってきて尋ねてきた。

『リュウ坊のごはんとりに行った』

私は緊張しながらも、画面を見せて説明する。

すると、額に手を当てて、琉生君は深いため息をついた。