春が来たら、桜の花びら降らせてね


「よし、もっと笑わせてやるからな」

張り切った様子の夏樹君が、リュウ坊を押し付けてくる。

ふわふわの毛が頬をくすぐり、自然と口元が緩む。

「冬菜のこと、もっと癒してくれよな……」

私の顔を見つめて、嬉しそうな顔をする夏樹君。

その顔を見ていたら、今度は穏やかな気持ちだけでなく、胸がざわつきはじめ、落ち着かなくなった。

どうして夏樹君は、私に優しくしてくれるのだろう。

それが、不思議でしょうがなかった。

「そんで、俺にたくさん、笑ってみせろ」

「っ……」

夏樹くんの纏う空気、言葉、仕草。
そのすべてが、温かく優しい。

ただ、その瞳の中に垣間見える切なさが、気になった。

「冬菜、動物ならなにが一番好き?」

夏樹君は隠しているつもりでも、わかってしまう。

『犬!』

そうスマホで文字を打って答えた。
踏み込んで傷つけることが怖い私は、夏樹君の嘘に甘えて、逃げたのだ。

私はやっぱり、弱虫だ。
真正面から、君にぶつかることを恐れた。