春が来たら、桜の花びら降らせてね


「冬菜……今、笑ったか?」

「あっ」

笑った……私が?
今度は私が目を見張る番だった。

そんなわけない、もうずっと家族以外の人に笑いかけたことなんてないのに。

「琉生、お前も見たよな!?」

「なに、そんなに驚いてるんだ?笑うくらい普通だろう」

琉生君は腕組みをしながら、怪訝そうな顔をする。

「き、貴重なんだよ!」

夏樹君は興奮したように、その場に跳ねた。

えっ……てことは私、笑ってたってこと?
──信じられない……。

確かめるようにペタペタと顔に触れてみる。

仮面のように動かない、冷たく無機質なこの顔が、笑ったということが、いまだに受け入れられず、夏樹君を見つめてしまう。

「やべー、超嬉しすぎだろ!」

私が笑ったことを喜ぶ夏樹君。
他人のことで、こんなにも喜べるものなのだろうかと、驚かされる。

でも……夏樹君が嬉しそうだと、私の心に花が咲く。

ふわりと温かい春を連れてきてくれて、冷めた心が彩りを取り戻していくのだ。