「こいつは斉藤(さいとう)琉生。俺のバイト仲間で、俺等と同じ学校の隣のクラスなんだぜ。そんでもって、めちゃくちゃ頭がいい。テストの時は、勉強ノート貸せよな」
「はじめまして、琉生です」
琉生君は夏樹君の言葉をサラリと無視して、柔らかい笑みを浮かべるとそう言った。
「っ……あ……」
夏樹君の友達なのに、失礼な態度とれない……!
何か言わなきゃと、焦れば焦るほどやっぱり言葉は出ない。
まだ話せないことに絶望しながら、私は会釈で返した。
「夏樹のバカには貸さないけど、君には貸すから、いつでも相談して」
話さないし、笑わない。
愛想が悪いように見えたはずなのに、琉生君が気にしている様子はなかった。
優しい人だなぁ……。
隣のクラスってことは、B組か。
見かけたことないな、ううん……あたりまえだ。
本ばかり読んでいた私は、入学してから誰の目も見ず、ただ文字の羅列を眺め、授業に参加し、帰るのルーチンワーク。
私がいかに世界を閉ざしていたのかを、痛感した。


