「冬菜、このあと暇?」
このあとは、家に帰るだけだ。
どうしてそんなこと聞くのかと首を傾げれば、夏樹くんが私の手を掴んで軽く引いた。
「俺について来いよ、ぜってぇー後悔させねーから!」
「あっ……」
──急に手、掴まれた!
驚いている間にも、夏樹君はどんどん私を引っ張る。
春の嵐に攫われるかのように、問答無用でどこかへと連れていかれる。
「ほら、行くぞ冬菜!」
本当、強引なんだから。
どこに行くつもりなのか、不安はあった。
けれど、夏樹君の楽しそうな顔に、私はつい頷いてしまうのだ。
夏樹君に連れて来られたのは、学校から15分ほど歩いたところにある、駅前のショッピングモールの2階だった。
「わんわんっ」
「にゃおーん」
そこには、ガラスケースをのぞき込む人々を、つぶらな瞳で見つめ返す犬に、カリカリとマットを引っ掻く猫がいる。
──……か、可愛いっ!!
私は夏樹君が隣にいるのも忘れて、飛びつくようにガラスケースに張り付く。
その愛くるしい仕草を眺めると、唇をほころばせた。


