「あっ」
な、なに……っ?
どうしてこんなに近づくの?
内心パニックを起こしていると、夏樹くんは少し怒ったように、私の鼻を人差し指でつついた。
「うっ……」
「ささいなことで良いんだよ」
え……?
夏樹君の言葉の意味がわからず、問うように見つめ返す。
恨み、妬みといった黒い感情をどこかで捨ててきてしまったかのように、澄んだ瞳だなと思った。
「可愛い花を見つけたとか、空が綺麗だったとか、冬菜が感じたもの、全部俺に教えろよ。俺はどれも知りたい」
「っぁ……」
なんでだろう……。
今、ものすごく、泣きたい。
私を知ろうとしてくれた。
それは、真っ暗で広い世界に取り残されていた、私を照らす光のようで。
優しくされることには、慣れてないから……戸惑ってしまう。
今までなら、自分の気持ちを抑え込んで、何も感じていないようなフリができた。
私は、弱くなったみたい。
じんわりと凍りついた心を溶かしていく優しさに、絆されそうになっている。
それを恐ろしく思いながら、前みたいに離れようと即決することはできなかった。
その考え方の変化に、私はまた〝なぜ?〟と自分に問いかける。
私は……離れたくないと、思っているのだろうか。


