春が来たら、桜の花びら降らせてね


放課後、部活に所属していない私は、教室で帰り支度をしていた。

そんな時、フワリと。
開いた窓から吹き込む春のそよ風に誘われて、窓の外を見つめる。

校庭も、校舎も、学校の周りに立ち並ぶマンションも、そして教室にいる私も、頭のてっぺんから髪の先端に至るまでが赤く染まっていた。

燃えるように赤い、鮮やかな夕日に世界は包まれている。

桜は散ってしまったけれど、風はまだ心地よい温かさだった。

見えないけど、風が春を教えてくれている。

そんなことを考えていると、ざわついていた教室の音も自然と意識から離れて、遠くに聞こえた。

「冬菜、なにしてんだ?」

ふいに声をかけられて、私は振り返る。
スクールバッグを肩にかけて、少し首を傾げるようにした夏樹君が私を見つめていた。

なんでもないよ。
ただ、世界を染め上げる夕日に目を奪われていただけ。

ただ、風を感じたかっただけだから、話すことのほどでもない。

だから私は、首を横に振った。

「あんな、冬菜」

ズイッと夏樹くんが私に顔を近づける。
鼻先が、吐息が触れそうなほどに近い距離に、動悸が速まり、呼吸が微かに乱れた。