「あぁ、今日も母さんと冬菜のために頑張るぞ」

「ふふっ、いつもありがとう、お父さん」

先に席についてブラックコーヒーをすするお父さんと、笑顔でたわいもない話をする。

これが、原田家の日常で、私が唯一幸せだと感じる時間だった。


「カウンセリングは明後日よね、お母さん車で送ろうか?」

「ううん、ひとりで行けるから大丈夫」

カウンセリングか……。
気が乗らない私は、お母さんに曖昧に笑って答えた。

私、原田 冬菜(はらだ ふゆな)は、原因不明で起こるとされる場面緘黙症だ。

一見普通に見える私の病気は、家では普通に話せるのに、学校など特定の場所では話している姿を見られることが不安で、全く話せなくなるというもの。

私の場合、家にいても家族以外とは親しい親戚を除いて全員話せなかった。

話そうとすればするほど、緊張して体がこわばってしまう。