「あのさ、さっきの……琴子のこと、悪かったな」
さっきの……。
言われて思い出すのは、「なんで喋らないの」と言った相沢さんの無邪気で残酷な言葉だ。
相沢さんには悪気はなかった。
誰もが最初に感じる違和感で、触れてこない夏樹君の方が不思議なくらいだ。
けれど、誰かを責めなければ心が苦しかった。
喋らないんじゃなくて、喋れない。
喋れない理由なんて、私が聞きたいくらいだった。
「喋れない……んだよな」
「あっ……」
どうして……?
どうして、私が故意に喋らないんじゃなく、喋れないのだとわかったのだろう。
普通の人なら、喋らない私は地味で、静かで、人見知り、そんな風に見て、本当の理由なんて誰も気づかない、知ろうともしない。
なのに夏樹君は、迷いもせずに私が話せないのだと言う。
「……お前のことなら、知ってるよ」
「…………」
私は……知らない。
出会ってからの夏樹君は、私の前では屈託のない笑顔を見せてくれる。
だけど……わからない。


