『なんで喋らないの?』

その一言で、一瞬にして心が冷めていく、心臓が軋む音がする。

私を引きずり込むような闇が、どんどん体の中に広がっていくような感覚と共に、思い出される過去の記憶。

『おい、なんか喋れよ原田地蔵』

『ねぇ~、なんか言いなよ、原田地蔵』

目を閉じれば蘇る、屈辱の日々。
ギリッと奥歯を噛みしめて、私はパタンッと大きな音を立てて本を閉じた。

「え、冬菜ちゃん?」

「やめろ、琴子。こいつは……」

不思議そうな顔をした相沢さんを、なぜか夏樹君が止めた。

理由はわからないけど、助かった。
これ以上、土足で心を荒らされるのは不愉快だったから。

何も知らないって、都合のいい凶器だ。
知らないからって、人を傷つけていい理由にはならない。

「…………」

──ガタンッ。
私は無言で席を立ち、本を片手に教室の出口へと歩いていく。

授業開始まであと数分しかないというのに立ち上がった私を、クラスメートたちが不審そうに見つめてくるのがわかる。