「キモイ言うな、そこのカップル。ちょっと間違っただけじゃんなぁ?な?」

同意してくれと言わんばかりにこちらを見る夏樹君。

イモムシ……苦虫。

先ほど、恋と愛について綴られた美しい言葉とは裏腹に、単語一つ違うだけで人をこんなにも不快にできるんだな、言葉って。

思い出すだけで、やはり不快な気持ちになった。

「…………」

私から言えることは、何もないな。

何も言わずに、私は夏樹君からスッと視線をそらした。

「目線そらすなよ!」

知らないよ、そんなこと。
泣きべそかいている夏樹君が、とてつもなくうるさい。

私の平穏な日々はどこにいったの?
嘆きたいのは私の方だった。

「なぁ、冬菜ちゃんってなんで夏樹に付き纏われてんの?」

そんなの、私が聞きたいよ。
貝塚君の質問にまた、ため息をつきそうになる。

「ねぇねぇ、冬菜ちゃんって、なんで喋らないの?」

──ドクンッ。
胸に、爆弾が落ちてきたみたいな衝撃だった。
胸の奥で潜んでいた闇が、牙となって心臓に噛みつく。