「ここ、お願いしたらさ、少しだけ貸し切ってくれたんだよ。本当、変わんねーな、懐かしい」
教室の入り口で立ち尽くしたまま、夏樹君に向けられる澄んだ黒曜の瞳を見つめ返す。
夏樹君はどういうつもりで、私をここに呼んだんだろう……。
わからないことばかりで、夏樹君の会話になにひとつ反応できない。
「もう、目も合わせてもらえないと思ってたからな、来てくれてホッとした」
夏樹君……。
夏樹君も、寂しいって思っていてくれてたのかな。そうだったらいいな、なんて。
また無駄な望みを、幻想を抱きそうになった時、私はそれらを掻き消すように頭をブンブンと横に振った。
そんな期待を抱いて、傷つくのはわかってる。
それよりも私は、ここにさよならをしに来たのだ。
目的を忘れては駄目だと、決意を揺らがせては駄目だと、自分に何度も忠告する。


