『もう、私の世界を壊さないで』

その〝もう〟というのは、何も知らなかった昔の俺が、冬菜の世界を壊した時のことだろう。

だから、怖くなってしまった。
もう俺は、冬菜に近づいちゃいけないんじゃないかって。

「俺……」

なんで、守りたいのに傷つけることしかできないんだろう。

全てを捨ててもいい、そう覚悟して冬菜に会いに来た。

クラスでの居場所も、変なプライドも、冬菜以外になにもいらない。

なのに、俺は自分の何をまだ、守ろうとしているんだ。

俺は……今でも冬菜が好きだ。
でも、それを素直に受け入れることは許されない。

俺は冬菜の傷そのもので、罪を背負ってる。

冬菜は俺みたいな最低な男より、もっと冬菜のことを大切にしてくれるような男と一緒になるべきだ。

なのに、琉生に嫉妬したりして、矛盾してる。

「何もかもが……中途半端なんだよ、俺は」

自分が、本当に汚れた人間に思えて嫌になる。

「俺は……どうすればいいだよ……」

弱々しい情けない声が、静かに廊下に響いた。



――今日もまた、君が遠い。