【夏樹side】

――俺は冬菜を……。

「あの暗闇の世界から、連れ出してやりたかっただけだ……」

一番笑顔にしてやりたかった女の子から、俺は笑顔を奪った。

冬菜を追いかけられなかった理由、それは怖かったからだ。

俺があの子の世界を壊してしまったから。
俺は、廊下の真ん中で力なく俯く。

そして、遠くて近い、いつも忘れるなと疼く過去の傷跡に引きずられるように、罪にまみれたあの日々に意識を奪われていった。




***

4年前、小学6年生の春。
クラス替えをして、新しいメンバーの顔触れの中、俺は自分の席へと歩いて行く。

その途中で、俺の足がピタリと止まる。
窓から見える桃色の景色を背に、窓際に座る女の子。

開いた窓からそよぐ、柔らかい4月の風が、その長い黒髪をフワフワと揺らす。

その様が、木々を彩り揺れる桜の花のように見えて、つい見とれた。

こうして俺は、無口で無表情な彼女の隣の席になった。