「冬菜……俺、またお前から奪ったんだな」

夏樹君は泣きそうな顔で、瞳に深い絶望を宿して、私に手を伸ばし、頬に触れようとする。

それに、ビクッと体を震わせると、夏樹君は手を止めた。

「あ……ごめんな、触れる資格なんか、無いよな」

夏樹君が自嘲的に笑い、力なくその手を下す。

こんなに胸が痛くて軋んで、こんなに悲しい気持ちになるのなら、夏樹君と再会なんてしたくなかった。

どうして、声をかけてきたりしたの。
知らなければ、また傷つくことなんてなかったのに。

顔には出さずに、心の中でボロボロに泣く。

「でも、もう、冬菜に背を向けて歩かないって決めたんだ。どんなに遠くても、お前の背中を追いかける」

「…………」

この世界は、黒く汚い。
人間は、普通じゃないモノを笑い、理解しようともせずに蔑む。

救いようのない世界なんだと、私は思い出してしまった。

むしろ、今までがおかしかったんだ。
きっと、夢を見ていただけ、すぐに忘れなくちゃと思う。

また、無駄な期待を、望みを抱かないように。
そう思った私は、これで使うことも最後だと思いながら、スマホの文字アプリを起動する。

文字を打つと、それを夏樹君へと見せた。