『おい、原田!』
「冬菜!!」
突然、名前を呼ばれたんだ。
記憶の中の声に、誰かの声が重なる。
振り返れば、そこには高校生の夏樹君がいた。
「急に出ていくから、心配した」
「…………」
わざわざ、追いかけてきてくれたんだ……。
それを、どこか冷めた気持ちで受け止める。
好きな人なのに、嬉しいはずなのに……どうして、何も感じないのだろう。
あぁ、無くなってしまったのだ、心が。
「泣いてる……のか?」
「…………」
この質問も、あの日と同じだ。
そっか、世界は何にも変わってなどいなかった。
結局、私は暗闇の中でしか生きられない。
泣いてなんかない。
なのに、夏樹君はそう尋ねる。
私は無表情に夏樹君をただ見つめた。


