春が来たら、桜の花びら降らせてね


「いや悪い、えーと……もうちょい頭出してくんない?」

頭……?
本当に夏樹君、何する気なの。

もちろん突っぱねようと口を開く。

でも、目の前で満面の笑みを浮かべる夏樹君を見た瞬間、良心がチクリと痛むのを感じ、私はもう一度口を閉じるのを余儀なくされた。

他の人なら、無視することが出来た。

なのにどうして、夏樹君相手だとこんなにも断りにくいんだろう。

自分の気持ちに戸惑いながら、私は恐る恐る言われたとおりに窓の外へ頭だけ出してみる。

その瞬間、ひらりと視界の端に薄紅色がよぎった。

目の錯覚かと思った私は、瞬きを数回繰り返す。

「入学おめでとう、冬菜!」

「っ……ぇ?」

驚きに、小さく声が漏れた。

お祝いの言葉と共に、はらはらと頭の上から降ってくる季節外れの薄桃色の雪。

それを掬うように手を出せば、ふわりと手のひらに舞い落ちる。

それは、夏樹君が降らせた桜の花びらだった。