ロゼを闇市場に奴隷として売ろうとする輩。
性的欲求を満たすための道具にしようとする輩。
魔術か何かの贄として、悪魔の娘として利用する輩。
彼等と遭遇したとき、ロゼはすぐに逃げようとしたが、屈強な男たちと十七歳の娘では差が開き過ぎている。
そんなことが続くと、ロゼは事前に人々の敵意が分かるようになった。
どういう人か、見分けられるようになった。
自分を傷つける人かどうか、ロゼの敏感な心はすぐに察知した。
ロゼはそれによって捕まることが無くなった。
今も逃げ切れたわけだが──ロゼは頭によぎる以前の光景に目を瞑った。
吐き気がした。
殴られた痕はもう肌に残っていないが、追いかけられる度に疼く。
誰か──愛して。私を、愛して。
一度でも良いから、愛されてみたい。
それがロゼの願いだった。
ロゼは、美しいものが好きだ。
彼女を傷つけることがない、木々や花、青空や鳥。
それらを愛していた。
けれど、彼女自身は愛されたことがない。
神父の強ばった表情、孤児たちの恐れ。
そんなものばかりで、愛されたことがなかった。
だから、誰か─私を愛して。
そう願っていた。
叶えられるはずのない望みに、ロゼは自分を嘲笑った。