「まだ…涙が流せるのね」
茜が驚いたように目を見開く。
露李はその表情のまま、声も出さずに涙を流していた。
「神の一族であっても、運命に手を出せるもの全てはその世界の運命に逆らってはいけない。神の掟を忘れましたか」
「覚えていますわよ。けれど、私の死に時はここかしらと思いましてね。友人の運命を黙って見ている訳にはいないでしょう?」
「お気持ちは、察します」
茜は泣く少女の頬に指を滑らせた。
この涙を拭うのは自分の役目ではないと思いながら。
「ねえ、この世界にいる人たちは貴女の大切なものに似ていますわ。ロゼさんは貴女に似ています。愛されたいという貴女の願いそのままですわ」
首を横に振る彼女に、茜は優しく笑みを向けた。
「無理に神になろうとしなくても良いのです。人間がどれほど奢っていても、力で変えたそれが露李ちゃんの望まない世界なら、治そうとしなくてもいい。悲しい人達を生むだけですわ」
「私は、茜さんを殺したくない。“本物”もそれを望んでいる」
「いいえ、掟は絶対ですわよ。いくら貴女が万能でも、未熟さの代償は払わなくては。たまたまそれが私だったというだけ」
さあ殺しなさい、と茜が両手を広げ、露李が唇を噛み締めた。
『出でよ、炎雷鬼』
露李がそう唱えると爆風と呼べるような風が吹き、彼女の髪が銀色に変わる。
そして瞳は金色に変化し、額に一対の角が現れた。
彼女の手には何処からともなく現れた刀が握られている。
花など何処にもないのに、くちなしの花弁が彼女の周りだけに散っていた。
構えの体制をとった瞬間────。
「駄目です!!」
声が、響いた。


