【短編】生け贄と愛


「シルヴェスタ、私を呼びつけるなんて良いご身分ですわね」


ほほ、と優雅に口許を袖で隠すアカネに今度はロゼが苦笑いした。

あれからルリに案内されアカネの屋敷に到着したものの、如何せん雰囲気がよろしくない。


「別に呼びつけてなどいない」


「あら、客人が来ていると聞いて帰らぬ主がいると思いまして?」


良い香りがする草で編んである敷物の上に、ロゼたちは膝を折って座っていた。

この町では正座という座り方らしい。


「何がそんなに嫌なんだ。追い返してくれても良かったのに」


「貴方だけなら勿論そう致しましたわよ!けれど今日はロゼさんもご一緒と聞いて帰ってきましたの。宴の準備も整わないのに、何てことでしょう!」


「本当にロゼは特別扱いだな。この町の人間がもてなし好きなのは知っているが」


ふん、とシルヴェスタを睨んでからアカネはにっこりとロゼに微笑んだ。

相変わらず艶やかだ。


「ごめんなさい、ロゼさん。何も支度が出来てませんの」

「あ、いえ、そんなお気になさらず…」


「そんなわけにはいきませんわ」


アカネがすっと片手を上げて手招きし、ルリを呼んだ。

後ろで控えていたルリが素早く寄ってくる。


「私の新しいキモノを隣のお部屋に全部持ってきなさい。もちろん、カンザシ、オビもね」


はい、という威勢の良い返事を残してルリが部屋を出て行った。


「キモノ?カンザシ?オビ?」


ロゼはきょとんとしてシルヴェスタを見た。

聞いたことの無い単語だ。


「キモノはこの町の伝統的な服だ。それをオビという堅い布で固定して着るんだ。カンザシは髪留めのようなものだな」


「アカネさんが着てる服のこと?」


「そうですわ。きっとロゼさんにも似合いますわよ、洋服と違って生地自体に大きな装飾はありませんの。レースやフリルよりも生地の質、色と柄の美しさが勝負ですのよ」


「私なんかに似合うでしょうか」


「もちろん。似合うものを探して着るのですから」


安心させる笑顔をシルヴェスタとアカネに向けられ、ロゼはほっとする。


「だから、着てみてくださいな」


そう言いつつアカネはどこか寂しそうに笑うのだった。