【短編】生け贄と愛


素朴で、でも少し温かみのある音だ。

耳に心地好く響いて、ロゼは思わず口許を緩めた。


降り立った瞬間、柔らかな風が吹いた。

髪を押さえながら辺りを見渡す。

これまで外でゆっくり景色を見るなどということは出来なかった。

追われ、嫌われ、生きてきた。

そんな彼女が今“立ち止まり、穏やかな風を感じている。

「─綺麗だ」


シルヴェスタが呟き、それにロゼも大きく頷いた。



「本当に」



見たこともない町だった。

木造の家が立ち並び、屋根には不思議な形の石が取り付けられている。

赤い球状のランプのようなものが店先に吊り下げられていたり、アカネが着ていたような衣服を着た人が沢山いる。

活気のある町だ。


「本当に、綺麗」


「綺麗なのはお前だ、ロゼ」


苦笑いで自分を見るシルヴェスタにロゼは顔を赤らめる。


「馬鹿」


顔を背けると、町娘と目が合った。

反射的に身体が強張る。
 
しかし娘は途端に目を輝かせた。


「シルヴェスタさん!!あんたこんな綺麗な人をもらったの!?」


そんな叫び声とともに近づいてきた町娘にロゼは改めて驚いた。

自分の赤に何の疑念も抱いていないようだった。


「相変わらずうるさいな、お前は。彼女はロゼだ。ロゼ、こいつはルリ。アカネの使い魔だ」


「はい?」


これまた現実離れした紹介に目が点になる。

そんなロゼの反応にルリはくすりと笑った。

使い魔ということは人ではないのか、と訝っているとルリの黒い目が瞬時に深い青に変わった。

しかし、瞬きをしてから見るともうそれは元に戻っている。


「ルリさん、今、目が」


「あ、やっぱりロゼさんには見えるんだ。シルヴェスタさんには不思議な縁があるもんだね」


ルリは含みのある笑顔をロゼに向ける。


「あたしは使い魔じゃなくて、式神だよ。召喚されたんじゃなくてアカネ様から造りだされたんだ」


「造り、出す?」


「今は分からなくても大丈夫、難しいから。ところで今日はどこか行くの?」


ルリの問いにシルヴェスタは少し考える顔をしてから首を傾げた。


「特にこれといった用はないが、散策して回るつもりだ。その前にアカネと会おうと思う。良いか?」


ロゼとルリ双方が頷く。