【短編】生け贄と愛

 
 アカネが去った後、二人を静寂が包んだ。

重苦しいそれに耐え切れなくなったシルヴェスタが口を開く。


「すまない、ロゼ。あいつは腐れ縁というか、何と言うか……」


「良いの」


不思議な女性だな、とロゼは考えながら傷を撫でた。

どうしてだろうか。幾分痛みが引いている。

無理矢理に使ったのだから痛んでも良いと思うのだが、ほとんど痛みがなかった。


「それで、ロゼ。さっきの言葉だが…俺は出任せを言ったつもりはない」


不意に現実に引き戻され、ロゼは傷をなぞる手を止めた。
頬が熱くなっているのを感じる。

それと同じくらい熱くなる心の温度も感じた。

狂おしく、甘い痛みだった。


「俺と一緒にいてくれないか」


痺れるように、シルヴェスタの声がロゼの耳に届く。


「愛している…」


求めていた言葉だった。

どうしようもなく、このために生きてきたのだと思うほど欲しかった言葉だった。

それを、彼から貰えるのか。


──ああ、また。


視界が曇る。

ロゼは泣いていた。

しかしその涙はこれまでとは全く違うものであった。

悲しみでも、苦しみでも、悔しさでもない。

ただ、彼女は嬉しいのだった。


「シルヴェスタ」 


手を伸ばす。

伸ばした先にあるものは、消え失せたりしない。

逃げることもないのだ。


「貴方が、好き…」


精一杯の想いを口にした。

ロゼを包む腕の力は潰れるほど強かった。



しかし、その強さが──ロゼは、嬉しいのだった。