さっきとは少し違う、穏やかな口調だった。
別段それは狂気を孕んだものでもなく、ただ上品なだけの口ぶりだった。
シルヴェスタの訝しげな視線をものともせず、アカネは後ろのロゼを覗きこむ。
艶やかな雰囲気の彼女が悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
ロゼの痛む身体が少し強張ったのを見て、今度は申し訳なさそうに眉を下げる。
「ロゼさん、ごめんなさい。もう何も致しませんわ、私とお話をしましょう?」
「え…?」
おずおずとロゼが背後から出て行こうとするのをシルヴェスタが手で制した。
「待て。何か企んでいるのか」
「いいえ。もう計画は成功しましたの。シルヴェスタ、貴方がた一族の呪いはご存知でしょう?」
「…ああ」
何のことやら分からないでいるロゼに、シルヴェスタが困ったように説明を加えた。
「俺達が血でしか生きられないのは、オカルトみたいな話だが、呪いのせいなんだ」
「呪い」
眉をひそめて見返す彼女に、シルヴェスタがますます困った顔をする。
「こんな体に生まれたのは、曾祖父が神に無礼を働いたかららしい」
曖昧すぎる説明に、半信半疑で頷いた。
「人を愛することで、呪いは解ける」
「へ、へえ…」
ますます現実味が無くなりロゼは頭を抱えた。
まるで本で読んだような内容だ。
「シルヴェスタのご家族は、その…愛し合ってはいないの?」
「そこなんですの!全く阿呆なことに、身体能力と知能が高いからって繁栄を極めた馬鹿者たちときたら!政略結婚ばかりしやがりましたのよ!」
語気を強めて話したのはアカネだ。
何やら事情を知っているらしい。
「ですが。私シルヴェスタには特別な恩がありますの。想いを寄せる方もいらっしゃることですし、呪いが解けるかと思いきや、まどろっこしいことをしていらっしゃるので」
「待て。お前、演技だったのか?」
遮られてムッとしつつアカネは頷く。
対してシルヴェスタは呆れ顔だ。
「洒落にならない。お前ともあろう者が」
「今この世を治めているのはもう私ではありませんもの。まさか、私が貴方に恋すると思って?」
ありえなーい、と飄々としているアカネにシルヴェスタはまた溜め息をついた。
「すまない…ロゼ」
謝られても致し方ないのだが、ロゼはシルヴェスタをしっかりと見ていた。
「そうそう。そこでですの。私、ちょっと細工を致しまして。貴方がロゼさんへの想いを真剣に叫んだら呪いが解けるように仕組んだんですわ」
「調子が良いな、相変わらず」
「まあ、失礼ね。これで想いが通じあったではありませんか」
シルヴェスタに散々言いたい放題のアカネが、またロゼを覗きこんだ。
「改めて私、アカネ・アキシノと申します。どうぞアカネとお呼びくださいね。“赤”の者同士、仲良くしてくださいな」
「ロゼ、です。苗字は少し…分からないです」
「苗字なんて些細なことですわ。お互いにお名前で呼び合いましょう」
アカネは優しく微笑んでから、ひらりと踵をかえした。
音高く靴を鳴らしてドアに近づき、優雅な所作で開ける。
「お邪魔しましたわ、お二方」
嵐のように去っていったのだった。


