そんなロゼが、何故、追いかけられることがあるのか。
教会から出なければそんなことにはならないのだが、町の神父はよく定期的にロゼをお使いに出した。
「貴女はあまりにも世界を知らない。美しいものを見なさい。そうすれば、ロゼ。貴女の心は闇に染まることはない」
毎回、この言葉とともにロゼは送り出された。
外に出るのは気が進まなかったが、神父様のお言葉だからと我慢した。
加えて、ロゼは自分が確かに世間知らずだということを自覚していた。
知っていることといえば赤色が嫌われていることと、自分が悪魔のように扱われてしまうことと、どうやら人として見目は大事だということ。
いつもの景色といえば、教会の壁や天井や庭。
ミサのときは大勢の人が参加を許されず、隔離された専用の小部屋でお祈りをしていた。
たまに庭に出たときに見える、青空や蝶、風や草木。
それらがロゼの全てだった。
だから神父様は自分をお使いに出すのだと納得している。
いつまでも教会に居るわけにもいかない。
いつか、外に出る日が来るかもしれない。
神父様は自分が生きるための訓練をしてくださっているのだと、ロゼは理解していた。
しかし、そう現実は甘くはない。
事実、今もロゼは大人たちに追いかけられている。
忌み嫌われる容姿だからといって、なぜこんな風に追いかけられなければならないのだろうか。
追いかけられるのは毎回のことであった。
走り疲れて木にもたれながら、ロゼは木に手をついていない方の手で汗を拭った。
今回も捕まらなかった、と安堵の溜め息を漏らす。
最初にお使いに出たとき、ロゼは大人たちに捕まった。
強靭な男たちに腕を捕まれ、ずいぶんと怖い思いをしたものだ。
その光景がまたロゼの脳裏にちらつき──身震いする。
─おいお前、こいつ上玉だぞ
─ほんとだな。悪魔みてぇな色してやがるのに
─焼き印捺すのがもったいねぇな
─んなこと言ってる場合かよ、早く捺して連れていこうぜ
─大儲けだな
下卑た声がロゼの耳から離れない。
焼き印とは何かなどすぐに分かった。
縄で繋がれていたロゼにも見えた暖炉の中に、それらしきものがあったからだ。
自分は売られるのだ、と自覚してからは有らん限りの力で暴れた。
はしたないとか、そんなことは頭にも無くなるほど無茶苦茶に暴れ、縄を噛み千切り、男たちを引っ掻いて外に出た。
外に出ても彼女を見る目は軽蔑や恐れなどという負の感情が表れたものだけだった。
絶望に駆られながらロゼは無我夢中で教会に逃げ帰ったのだった。
それからも何度か捕まった。
そうして、自分を捕まえる人間には三種類あるのだということに気がついた。