カツン、と靴の鳴る音が聞こえて、ロゼは身体を固くした。
「シルヴェスタ…?」
呼びかけてみるが、返事は無い。
その代わり大きな音をたてて扉が開いた。
「どちら様ですの?」
入ってきたのは見たことのない衣服を着た妖艶な雰囲気の女だった。
何枚かの美しい布を重ね、しっかりと帯で結んでいるがどこか色っぽい雰囲気がある。
揃えて切った長い銀髪を右側にまとめて垂らし、本物の大輪の真っ赤な花をつけている。
真っ赤に紅を塗った唇、そして──赤い瞳。
どちら様と言いたいのはこちらなのだけど、と思いながら女を見つめる。
「シルヴェスタの言っていたロゼという女性は貴女ですの?」
高飛車な口調で尋ねられ、声も出せずに頷いた。
「むかつきますわ」
何を言われたのか理解できずにいると、女は灰色の扇を取り出してロゼに突きつけた。
ひやりとした感触に、それが鉄扇だと分かる。
そのまま顎を上に向かせられる。
必然的に女と目が合うことになるのだが、ロゼは女の赤い瞳に魅せられていた。
ロゼの赤よりは少し暗い色味だ。
「あたくし、シルヴェスタを好いておりますの」
「はあ……」
この女性は誰だろう。
そればかりが頭に浮かぶロゼが間抜けな返事をすると、女の眉がピクリと上がった。
「貴女はシルヴェスタをお好きですの?」
苛立ったように問われ、今度はロゼの肩が揺れる番だった。
怖い、けれど。
「好き、です」
その気持ちは変わらない。
「では、お手合わせ願いますわ」
何かを考える前に、女がロゼから一歩下がった。
それが何を意味するのか推し測る暇もない。
「ほら、貴女も構えて下さらないと」
優雅な振る舞いの女にぞくりと背筋が寒くなる。
ロゼは唇を噛んで睨みつけた。
自分の息づかいだけが聞こえる。
ここで戦わなければ、私はシルヴェスタと一緒にいられない。
それは、嫌だった。


