それからシルヴェスタは毎日部屋に来ることはあっても長居はせず、触れてこようとはしなかった。
歩けないロゼのために買ってきた出来合いの食事を運び、手当てのための道具と水を持ってきた。
着替えは自分で行うが、着るものは全てシルヴェスタが調達したものだ。
その姿はさながら執事か騎士のようで、ロゼは毎度お礼を言いつつ複雑な思いに駈られた。
どうしても怯えてしまう自分がいる。
シルヴェスタを好きな気持ちは変わらない。
けれど、身体と心に焼きついた恐怖が消えない。
思い出してしまう。
自分を餌として、獲物としてしか見ない男達から受けた仕打ちを。
人として見たことがない、という言葉は思いの外ロゼの心を抉っていたようだった。
いくら許したいと思っても、優しくされても、奥底にある恐怖は消えない。
ロゼはシルヴェスタのいなくなった部屋で、一人、ぎゅっと赤林檎を握りしめた。
シルヴェスタが運んできてくれるものの中には、必ず赤い色の物が入っていた。
赤林檎、あるときはチェリー、あるときは苺。
私の、色。
そう分かっているのに、どうしてもシルヴェスタと目を合わせられない自分がいた。
刻々と怪我は癒えていくのに、どうしたら良いのか分からない。
自分の想いとは裏腹に植えつけられた恐怖。
それはロゼ自身にもどうしようもない感情だった。
シルヴェスタの優しい眼差し、手、言葉。
全てに裏があるのではないかと疑ってしまう。
もう一度絶望のどん底に落ちるのではないかと心がブレーキをかける。
シルヴェスタと話したい。
以前の“彼”ではなく、本当のシルヴェスタを知りたい。
この家に置いてくれているのだからシルヴェスタの言葉は本当なのだろう。
そう信じたいのに──信じられない。
一人ベッドの上でロゼは涙をこぼした。
──そうして、“彼女”がやってくる。


