【短編】生け贄と愛



愛さなくてもいい、だったか。


そう思った瞬間、ロゼはプッと吹き出した。

あんな残酷なことをした割には真面目すぎる。


慌てて口をつぐむが、そのまま面白そうに林檎を手に語る男を見つめる。


「…どうした?」


あまり声を出して笑うことのないロゼ。

シルヴェスタにとっても珍しいそれに、彼は複雑そうな表情を浮かべた。


「…真面目」


「当然のことだと、思っている」


一つ一つの言葉が懺悔のようだ。


「林檎、剥いてくれるの」


「ああ。だが問題がある」


包丁を指差し、いいか?という表情をするシルヴェスタに頷いてみせた。

シャリ、とまた軽快な音が鳴る。


「皮を剥くと赤色でなくなってしまうのだ」


「え」


当たり前ではないのか、とロゼは眉を寄せた。

青林檎だろうが赤林檎だろうが、中の色はあまり大差なかったように思う。


「中身まで赤いものはないのか。お前の色じゃなくなる」


シルヴェスタ至極当然というように目の前の球体を睨み、また考え込む。

一方ロゼは顔を真っ赤にさせた。

私の為に、という言葉を飲み込む。


「何だ?顔が赤い。熱が出てきたのかもしれないな」


見せてみろ、と額に手を当てようと彼が立ち上がるが、思わず身体が逃げてしまう。

背中越しに、シルヴェスタが固まった雰囲気が伝わってきた。

はっとして向き合うと、ぱちりと目が合う。


「シル、ヴェスタ……」


「すまない」


「違うの、私」


「仕方のないことだ。気がつかなくてごめんな」


無理に笑うシルヴェスタに、ロゼの胸がちくりと痛んだ。