【短編】生け贄と愛


すまない、とまた呟いた。

ロゼの境遇を知っていたのに。

彼女は気がついていなかったようだが、神父は明らかに追い出すつもりで買い物に行かせていたのだ。

自ら手をかけることは出来ない、ならば他の者に。

逃げておおせたとしても、暮らしてはいけないだろう。

それではと少しの食べ物を持たせて。

容姿が目立つ昼間に。

信心深い神父だからこそ、赤い悪魔の化身は恐ろしい。

それで他の子供たちを守るとでも言うのか。


シルヴェスタは蒼白な彼女の額に、自分の額をつけた。


ロゼ、お前は。

“運命”への、生け贄だ──。


優しくシルヴェスタの名前を呼んだロゼ。

悪魔悪魔と罵られ忌み嫌われてきた彼女だから、化け物などと言わなかったのだ。

言われたら痛いことを知っている。

ロゼは自分の苦しみを、シルヴェスタにけして分かってもらおうとはしなかった。


『ずいぶん辛い思いをしてきたんだね』


『そうかもしれないわね』


以前、他人事のように言ってのけた彼女に違和感を覚えたものだが──あれは、ロゼの強さだ。


シルヴェスタは胸の痛みが、罪悪感が、どこから溢れ出るものなのか気がついた。


何度もロゼの名前を呼び、そっと彼女を抱き上げる。


その姿は化け物とは程遠い。


そう、まるで彼女を守る騎士のような姿であった。