浮かした腰を再び沈め椅子に戻り、取次の言葉を待ったがそれはすぐに来なかった



机に頬杖をついてさつきを真っ直ぐに見つめる



「はい」


「畏まりました」


胸を押さえるさつきの声だけが届く



保留を押して「橘、外線1番に向井商事の堀内様からよ」と目を逸らしながら受話器を置いたさつきをまだ真っ直ぐに見つめる



俺の存在に気付かないで、久しぶりに恋愛モードになった相手はどうしようもない男かよ




受話器を取らない俺に文句を言うべくまた俺を見るさつきを見つめ続ける



せっかく久しぶりにさつきが恋愛モードになったんだ



この機会、利用させていただく




眉を顰めるさつきに不敵な笑みを見せ受話器を取る





さつき




お前に相応しい男は俺だって気付かせてやるよ










外回りから会社に戻ると時刻は18時30分


最後の訪問先で契約に関する説明を再度細かくさせられ思っていたより時間を取られた


まださつきはいるだろうか…


ロビーのエレベーターホールで会社から貸与されているスマホを取り出す


携帯用充電器を使っていたから電池は満タン