10年前と同じように着ていた上着を脱いで私に掛ける


「今日はジャージじゃないから上まで隠せないけど」

なんて言いながら苦笑する橘


10年前に掛けてくれたジャージは返すタイミングを逃し未だに私の実家のクローゼットの中に眠っている



「遅いのよ。もっと早く来なさいよ」


素直じゃない私はそっぽを向いて文句を言う



嘘よ…


本当はすごく嬉しいの


10年前も今日も


ちゃんと助けてくれた




「ごめんって、会話聞きながらの残業って本当捗らないし、電車は速く走ってくんないし」



私を立ち上がらせ強く肩を抱き寄せられ明るい通りへと歩く


「ちょっ…近すぎ」


近すぎと言うかくっつきすぎと言える状態に抗議する


「酔った振りしてくっついてブラウス押さえとけよ」


言われてブラウスのボタンが弾け飛んでいたことを思い出し慌てて襟元を寄せ押さえる


営業成績トップを浸走る橘の気遣いに感謝だわ



あ…


営業成績と言えば…


「向井商事との契約大丈夫なの?」


過ぎる不安…


橘がいつも持ってくる向井商事との取引額は結構大きい


「何の心配もいらない。向井商事の売上の7割はうちの商品だから、むしろ取引がなくなれば困るのはあちらだからな」


普通の営業なら受注貰えて喜ぶだけのところ、取引先の売上データまで把握してるとは…