「どうして私なの?どうして傷があったらダメなの?」


橘は困った笑顔を見せていた


いや、むしろ私の格好に笑いを堪えていたのかも…


「この傷って前に言ってた心臓の手術した時のだろ?」


そう言いながらジャージの袖に腕を通すように促す


「俺はさつきじゃないから、さつきの思うことまではわかんないけど、この手術があったから今俺の前にさつきがいて、高校生活もそれなりに楽しいんだけど、それじゃダメ?」


私を私として見てくれているその言葉に無言のまま首を横に振った










今、目の前にいる男は私を賭けの対象…いやもう人間としてすら見ていないかもしれない


「この際、穴があればいいだろ」と言ってのける目の前の男に恐怖と悔しさから強く唇を噛みしめる




スカートの裾側から男の手が太腿を伝いストッキングに手を掛けたその時、やっと現れたあいつ




「さつき!」




通りの灯りを背負って現れた橘を認識して私を押さえていた体が離れた


安堵から力が抜けズルズルと壁伝いに座り込む



橘の登場に堀内さんを置いて我先にと逃げるチンピラ2人



「堀内さん、警察の世話になりたくなければ金輪際さつきに関わらないことと今見たことは他言無用とすることをお約束ください。」


こちらに近付いてきた橘の表情は見えないけれど、声は明らかに怒っている