「……あの時の自分を私は今も克服できていないから……きっと今、慧とやり直しても同じに……」

「そんなの、やり直してみないとわからない……!」

急に強い口調で慧が私の言葉を遮った。

「……何でそうやって勝手に結論出すんだよ……」



思わず見上げた瞳に飛び込んできたのは悲しそうな慧の表情だった。

その悲哀の色が胸に突き刺さる。



「……慧……」

「結奈。
俺と結奈は別れてもう何年になる?
お互いに離れている間に色々な人に出会って、色々な経験をした筈だろ?
……高校生の頃より成長した筈だろ?
それを試すことなく結論出すなよ……。
少なくとも俺はその可能性を信じたい」



そして。

私の方をジッと見つめて。

スッと私の頬に長い指を添えたかと思うと。

フワッと私の唇にキスをした。

それはほんの一瞬の出来事。



ガタッと私は目を見開いたまま椅子を引く。

「……け……い!」

身体中の血液か沸騰したかのように真っ赤になる。

心臓の音がうるさくてたまらない。

ここはレストラン。

一体どれだけの人に見られただろう?



「……そんな顔、するなよ」

慧は苦笑して、私の手首を握る。

何の力も入っていなくて、ただふわりと掴まれているだけなのに。

掴まれた手をほどけない。

「そんな顔って……」

「あの頃みたいな、困った顔。
……すごく脈が速い」

「あ、当たり前でしょ!
外、なんだよ。
お店なんだよ、誰が見てるかわからないのに……!
は、恥ずかしいし、やめて」

「……俺は見られても気にしないけど……」

反論しかけた慧を思い切り睨み付けると、ごめん、と謝罪の言葉が返ってきた。