「そうなのよ。
キッパリ、バッサリ断られているんだって」

「……キッパリ?」



千恵ちゃんは俄に声を潜めた。

「好きな人がいるから、付き合えないって。
食事や飲み会に誘われても、部内全体の打ち上げや飲み会、接待以外は基本的に全部不参加なんだって。
徹底していて、隙がないって不動産部の女の子達の専らの噂。
あっ、マネージャーに見つかりそう、ごめん、またね」

慌ただしく切れた電話。

受話器を戻して。

私はぼんやりとパソコン画面の無機質なデータと手の中にある紙を見つめる。



全部キッパリ断っている?

慧が?

数年前は表面上、やんわりとこなしていた慧なのに?

どうして?



あの日から。

慧に再会したあの日から。

慧は毎日連絡をくれている。

電話だったり、メールだったり。

まるで付き合っているかのように。

他愛ない一日のこと、奏くんや亜衣のこと。



……明日のことも。

お昼前に迎えに行くから、一緒に中之島公園辺りでお昼をとろうと言われた。

まるで急に時間が舞い戻ったかのように。

私の中でだけ止まっていた時間がいきなり動き出したようで落ち着かない。

その目まぐるしさについていけない自分がいる。

自分の気持ちすらハッキリできず。

何処に身を投じていいかわからない。