何処か楽しそうな光を瞳にたたえて。



「まっ、待って、慧。
そんな急に……!」

「……時間あけたら、結奈は俺から逃げるだろ?
理由つくって断るだろ?
……もう逃がしたくないから」



スマートフォンを握る手ごと、ふいに引っ張られて。

態勢を崩した私は慧の腕の中に閉じ込められた。

いくら夜更けで暗闇で物陰でも、ここは公衆の面前だというのに。

そんなことはお構い無しに、慧は私をそぅっと大切そうにその胸に閉じこめる。

慧の香りに全身が包まれて、ワイシャツごしに体温が伝わって。

……クラクラして酔いそうになる。



「話、させて」

切なさを含んだ声が私の耳にジワリと響いて。

断りたいのか身を委ねたいのかわからなくなる。



……どうしてそんな声を出すの?

……どうしてそんなにそっと抱きしめるの?



聞きたいことはたくさんある。

だけど、どれひとつ、口には出せなくて。

「……話、するから……慧……」

単純な答えしか出せない。



私の答えを聞いた慧は、私を抱きしめる腕に少しだけ力をこめて。

「……時間とかまた連絡する……ごめん、もう少しだけこのままでいさせて」

高校生の頃のような幼い……どこか寂しげな表情を見せた。