「……今日の、って……」

「ちゃんと会って話したいって返事……急かしたくないし、待つつもりだったんだけど……。
今日あれからずっと、気になって、気が付いたら電話、してた」



その時。

パッパーッとマンション前の道路にけたたましいクラクションの音が鳴り響いた。

どうやら、無理にUターンをしようとした乗用車があった様子だ。

けれど、その音は。

スマートフォンを通しても聞こえてきた。



「……え?」

思わずスマートフォンを耳から遠ざけて周りを見回すと。

私のマンションのエントランスから数十メートルの距離を歩く慧がいた。

スマートフォンを耳にあてて。

スーツを着こなして、長い足で歩く姿は誰が見ても見惚れるくらいに恰好良い大人の男性。



「……結奈」

同じように気付いたのか、マンションの前に佇む私を、驚いて見つめる慧。

「慧……何で……」

「ち、違うからな、本当に。
偶然だから!
俺のマンション、あのスーパーがある角を曲がったところで……」

慌てて説明する慧がおかしくて、私は思わず笑ってしまった。

「……大丈夫、調べたとか思っていないから」



そう、慧はそんなことはしない。

……そういう嘘はつかない人だから。

私の返答に。

少しホッとしたように慧が近付いてきた。