彼と私の優先順位

亜衣の言葉に小さくかぶりを振る。

今の慧に向き合う自信はまだない。

嬉しい、だけでは走り出せない自分を私は知ってしまった。



テーブルの上に残った料理はすっかり冷めてしまって。

冷たく頑なになってしまった私の心のようだった。




その時、亜衣のスマートフォンが着信を告げた。

「あ、奏」

スマートフォンを片手に、嬉しそうに弾む亜衣の声と表情を見ていると。

本当に奏くんが好きなんだな、と思う。

長い年月を変わることなく、一緒に過ごしている二人を見ていると、羨ましい気持ちがこみ上げて。

私と何が違っていたのだろうと考えてしまう。



「……うん、そう、結奈の家。
え、そうなの?
わかった、少ししたら降りるね」

「奏くん?
何て?」

「今、結奈の最寄り駅に着いたから迎えに来るって」

「そっか。
奏くん、ご飯食べたのかな?」

手付かずになってしまったお総菜を見ながら私が尋ねると。

「どうだろ、後で聞いてみるよ。
帰りに何か買って帰ってもいいし。
冷めちゃったけど……結奈、温めなおしてしっかり食べなよ?
さっきから全然食べていないでしょ?
それ以上痩せないでよ!
嫌味?」

私が苦笑いを浮かべている間に亜衣はさっさと帰り支度を整えていく。

二人でマンションの一階に降りると、ガラス張りのロビーの向こうにスーツ姿の奏くんが見えた。



「奏!」

フワッと嬉しそうに笑って亜衣が手を振る。

奏くんはゆったりと微笑んだ。

「久しぶり、結奈。
元気そうだな。
亜衣がお邪魔しました」