そんなことはわかっていたのに、わかっていなかった現実が私を襲う。

「……ごめんな……。
傷つけてごめん……」

私の髪に顔をうずめて、慧が震える声で話す。

「ごめんな……」



違うよ、慧は悪くないんだよ、頑張れなかった私がダメだったんだよ。

私が弱かったんだ。

私が疲れてしまった。

そう言いたいのに。

言いたいことはたくさんあるのに。

唇が縫い止められてしまったように。

声が喉に張り付いてしまったかのように。

私の口からは言葉がでず。

必死で首を横に振る。



「……でも俺、諦めないから。
いつか……結奈を悲しませない俺になって、もう一回結奈を迎えに行くから」

私に言う、というより。

自分に言い聞かせるように慧が言う。




思わず顔をあげた泣き顔の私の唇に。

慧は長い指を一本押し当てる。

「……今、否定しないで。
……正直、しんどいから」

悲し気に慧は言って、私の身体を離した。

私の身体から慧の温もりが香りがゆっくりと離れていく。

きっともう感じることのない温もり。




それが、大好きな人との別れだった。