「あ、慧!
まさか、結奈に便覧借りちゃった?」

廊下を小走りでやって来た亜衣。



「残念。
奏に借りれば?」

得意気な顔をする慧に。

亜衣は思いっきりしかめ面を返した。

「もう!
奏が見つからないから、結奈を頼りにして来たのに!
……って、結奈、何それ?」

亜衣が私の手にある人形を指差した。



「あ、これ……今、慧がくれたの。
可愛いでしょ?」

嬉しくて笑顔で亜衣に見せると。

亜衣が冷たい視線を慧に見せた。



「……本当。
可愛いわ……。
どっかの男子は結奈にだけは優しいよね、結奈にだけは……」

「あ、亜衣……」

「うるせえ、亜衣」

「本当に結奈には甘いんだから、大方、お揃いとか言って喜んでんじゃないの?」

思わず顔を見合わせる私達を見て。

「……図星?」

ニヤリと亜衣が勝ち誇ったように笑った。

「奏を探して、言ってこよぅっと!」

楽しそうに走り出す亜衣。



「ちょっ、待て!
亜衣っ!」

真っ赤な顔の慧が亜衣を追いかける。

その様子が何だかおかしくて、思わず笑ってしまった。



結局。

奏くんに伝わって、慧は散々からかわれていた。



それでも。

その日から。

慧と私の通学鞄には熊のぬいぐるみ達が仲良く揺れていた。