「おわっ!」



こんなに焦った声は隣りに座る男子から、この半月、聞こえたことはなかった。

反射的に慧を見ると。

ナイロン製の制定鞄のファスナーを全開にしてガサゴソと何かを探していた。



「……マジかよ……」

小さな呻き声が聞こえて。

思わず声をかけた。

「……館本くん、どうかしたの?」

慧はパッと顔をあげて私を見た。

「いや……筆箱忘れちゃったみたいで……次、現国、小テストするって言ってたのにさ……奏に借りるしかないか」

困り顔の慧を見て、私は自分の赤いギンガムチェックの布製の筆箱からシャープペンシルと消しゴムを取り出した。



「これ、良かったら今日一日使って」

「え?
……でも」

驚いた顔をして、慧は私の手の平の文房具と私の顔を交互に見た。

「大丈夫、私、よく消しゴムなくしちゃうから、いつも二つ持ってるの。
シャープペンシルも三本くらいあるし。
……日下部くんと席、離れてるから、今からだと先生が来ちゃうかもしれないし」

ホラ、と筆箱を開けて見せると、慧は安心したように頷いた。

「……ありがとう。
助かる。
じゃあ、今日一日、貸してもらうな」

フワッと。

男性にこんな表現は間違えているかもしれないけれど。

萎んでいた花がゆっくりと花開く様に。

優しく慧は微笑んだ。

……これが初めて慧と話した時だった。