彼と私の優先順位

「……ごめん、結奈。
心配、かけたくなかったから」

そのまま私を引き寄せて、慧が耳元で囁く。

近い距離から聞こえる慧の低い声。

私の体温が一気に上がる。



突然の出来事に口がきけずにいる私の代わりに、奏くんが溜め息を吐く。

「……慧。
結奈が固まってる。
それと、その言い方、誤解を招くからやめろ」

「何で?」

私を離さずに話す慧。

慧の体温が肩から直に伝わって、慧の香りに包まれて落ち着かない。

「……何でってお前と結奈、そもそも付き合っていないから」

「あ……そっか。
じゃあ結奈、マジで俺と付き合って」



いつものようにサラリと言われた。

綺麗な薄茶色の瞳に射ぬかれて。

ドキンッ……と私の心臓が今までにないくらいに大きな音をたてる。



今、今……慧は何て言った?

付き合って、って言った?



さっきまで。

二週間限定とはいえ、彼女ができたって奏くんから聞かされて。

仕方なかったからって言われて。

詳しい事情もよくわからないのに。




でも。

私に彼氏ができたら困るって、私は特別で好きだって言われて。

だから。

付き合ってって。




……何で?

慧にとったら、好きって、付き合う気持ちってそんなものなの?

とられたくないから、とりあえず手中におさめておく、みたいな。

そんな子どものケンカみたいなものなの?