彼と私の優先順位

不動産部という言葉にギクリとする。



「俺が受け取ることができたら良かったんだけど、館本くん、今朝から東京に出張らしくてさ。
急ぎで仕上げてすぐに出るって言われたから。
俺も出ないといけないからスレ違いで……」

笠井さんの言葉が途中から聞こえなくなる。



足元にポッカリ黒い穴が空いたようだ。

東京に出張?



慧に会わなくてすむ、と思う気持ちと。

自分から連絡を絶ったのに。

何も聞いていない、と焦る気持ちが交錯する。



私の無言の状態を了解だと勘違いした笠井さんは、機嫌よくフロアを後にした。

力なく自席に座り込んだ私は、パソコンを起動させたけれど、頭の中に数字が入ってこない。



どれだけ時間が経ったのか。

机の内線電話が鳴った。

「は、はい……紬木です」

「お疲れ様です。
不動産部の中川です。
笠井さんに頼まれていた契約書をお持ちしました」

「あ、はい。
ありがとうございます。
すぐに参ります」



受付の内線電話からの呼び出しだった。

受け取りのため立ち上がって。

……中川さん?

初めて聞く名前に違和感を感じる。

慧の補佐は溝口さんだった筈。

そんなことを考えながら受付に向かった。