「ううん、違うの。
慧の運転が恐いとか車が嫌とかじゃなくて……初めてだなあって。
慧が運転している姿を見るの」

「……そっか。
大学入学してからだもんな、免許取ったの」



懐かしむように話す慧とは対照的に。

別れた時のことを思い出す私。



「……知らないこと、たくさんあるよね」

声のトーンが無意識に落ちた私に。

「知っていけばいいだろ?
これから。
俺はもう結奈と離れるつもり、ないよ」

何でもないことのように力強く言いきる慧に。

私は火照った頬を隠すように俯いた。



助手席に座ってシートベルトを締める。

車内は無駄な装飾もなくスッキリしていて、微かな消臭剤の香りに混じって、慧の香りが満ちていた。

今までどれだけの女の子がここに座ってきたのかな……。

運転席の慧との距離の近さにドキドキしつつ。

シートベルトを締める慧をチラリと盗み見していると。



「……女性は誰も乗せていないよ、助手席」

クックッと笑い声を洩らしながら慧が車を発車させた。

「そっ、そんなこと……!」

一気に耳から頬が火照り出す。

考えていたことを指摘された私は本当に居心地が悪い。