柱の陰になる、玄関ドアのすぐ近くで。

ゆっくりと優しく触れる慧の温かな唇。

目を見開く私に。



「……ちゃんと目、閉じろよ?」

啄むようなキスをしながら、ハチミツみたいに甘い慧の声は。

私の思考をぐにゃぐにゃに蕩けさせる。



慧の長い睫毛が。

ゆっくりと伏せられて。


慧はグッと私の腰を引寄せる。

先刻までの優しい甘いキスが嘘のような。

激しく私を呑み込むようなキス。



角度を変えながら何度も繰り返される深い深いキスに。

息苦しささえ感じて。

私は立っているだけで精一杯になる。



慧の形のいい唇が私からゆっくりと離れて。

数センチの距離で。

慧は私の上唇をゆるく噛む。



瞬きできずにいる私を色気タップリの瞳で捕らえて。

慧は私を解放した。

「……そんな顔するなよ」

困ったように笑って、慧はこめかみに温かなキスを落とす。



「おやすみ、ちゃんと戸締まりしろよ?
……不安になったら連絡すること、な」

私に荷物を渡しながら、キュッともう一度私の頭を胸元に抱きしめて。

慧はエレベーターホールに向かっていった。

「……おやすみ……なさい」

私は呆けながら、部屋に入り、カチャンと扉を閉めた。