彼と私の優先順位

柘植くんの腕から逃れようと必死でもがく私の耳に。


「結奈」


聞き覚えのある声が響いた。



ぐっと引き寄せられる腕。

肩に感じる温かな手の感触。

耳元に届く吐息。

懐かしささえ感じる香り。



信じられない思いと共に。

フッと私の力が抜ける。

見上げた私の瞳に映るのは、私を心配そうに見つめる温かな慧の瞳。



「……大丈夫か?」

気遣わし気な声の慧に。

私をギュッと抱きしめる腕に。



呆然と、その綺麗な瞳を見返して頷く。

「……結奈に何か用?」

私を胸に抱き締めたまま、聞いたことのない冷たい低い声で、慧は柘植くんを目を細めて睨む。

その声に、視線に慧の怒りを感じて、ゾクリと肌が粟立つ。

慧が纏う空気は氷のように冷たい。



「え……あ」

突然の第三者の登場に驚く柘植くん。

「……俺の大事な彼女に手、出さないでくれる?」

言葉自体はとても冷静だけれど、その声音と瞳の冷たさに圧倒的な威圧感がある。

二人の身長差は殆どなく、むしろ柘植くんのほうが体格は有利なのに。

この場では確実に慧が主導権を握っている。



「か、彼女?」

状況が理解できない、といった様子で柘植くんが私を見る。

私は一刻も早くこの場から離れたくて慌てて頷く。



「……そういうわけだから、結奈は諦めて」

私には話をさせないとでもいうようにピシャリと言い切る慧。

「……次、結奈に手を出したら許さないからな」

ジロリと綺麗な瞳に怒りをたたえたまま、柘植くんを再び睨み付けて、慧は私の手をきつく繋ぎ、踵を返して廊下を突き進む。