彼と私の優先順位

「あれ、お手洗いってこっちだった?」

「結奈、汚れ落ちたかな?」

廊下の先の方から巴ちゃんと千恵ちゃんの声が微かに聞こえてきた。



「あ、柘植くん……皆が探してくれているみたいだから、戻ろう?」

私が柘植くんを促して、踵を返そうとした時。



「紬木っ」



柘植くんが私の右手首を掴んだ。

反射的に見た柘植くんの瞳は真剣で、今まで見たことのない表情だった。

掴まれた手首に柘植くんの力がこめられて柘植くんのに引っ張られた。

バランスを失った私の両肩を掴む柘植くん。

その力強さは痛いくらいで。

柘植くんの胸に引き寄せられる。



「紬木、聞いてほしいんだ。
突然かもしれないけど、俺……」

「つ、柘植くん、ちょっと待って。
は、離してっ」



ドキドキ、と言うよりは柘植くんから離れなきゃ、という恐怖心に似た意識が勝る。

男性の、しかも大柄な柘植くんの力はとても強くて、柘植くんの腕をなかなかふりほどけない。



どうしよう、このままじゃ……!

同期会の最中にこんな場所で……ううん、何よりも普段と違う柘植くんの姿に混乱する。

狼狽えてもがく私にお構い無く、柘植くんは腕に力を更にこめて私を抱き締めようとする。