無言のまま、お互いがひたすらに鍋をつつく。 よりによってなぜ鍋。 鍋がグツグツと音を立てるたびに家族が恋しくなる。 こんな重苦しい中で鍋をつつくのは人生初だ。 こんなに虚しく鍋を囲むことがあるなんて知らなかった。 不毛だ。 「父さんたちは?」 ポン酢にくぐらせた豚肉を飲み下してからやっと椿は口を開いた。 「あんたの両親は旅行だって。妹は友達の家に泊まりに行った」 「旅行?そんな話し聞いてないぞ?」