真ん中にべっとりついたグロスを左右に伸ばしていく。
私の唇はみるみる赤く染まっていく。
「行ってきます。」
ガチャりとドアを開け、今日も口をきらつかせながら私は学校へ向かう。
浅葉潮美。今日から高校2年生。家族はパパ、ママ、私の3人家族で部活は放送部に入っている。
教室に足を踏み入れた瞬間背筋が凍った。
グループが既に出来上がっているのだ。1年生の時に同じクラスだった人同士、同じ部活同士、私の入れる余地はないと悟った。
最初が肝心って本当だね。
入学式の日から既に戦いははじまっている。私はその戦いに負けたんだ。
人見知りっていうのもあるんだけどそれ以上にこの学校が嫌だった。第一志望の国立に見事に落ち、滑り止めの低偏差値の公立ーこの学校に通うことになった私は初日からブラックな気分で友達を作る気になどとてもなれなかった。日が経つごとにグループはどんどん結成されていき、私は完全なるぼっちとなった。
唯一同じ部活の子たちとも見事にクラスが別れ、今年もぼっち一筋になりそうだ。

「愛ちゃんって怖くない??」
とある日の放課後、いつもの部活メンバーで帰ってると1人の女子が言い出した。
「わ、か、る!」「いっつも人の悪口言ってるよね。」「怖すぎ。」「もしかして私たちのも裏で言ってたりして…」「ちょっとやめてよ。」「でもありえなくない。」
みんなが口々に言い出す。
愛ちゃん。佐藤愛。今年新たに新入部員として放送部に入った女子だ。美少女でちょっと見た目が派手めで新入部員の中でも一際目立っていた。耳にはピアスの穴が開いていて、マスカラで塗られたまつ毛はガッとぱっちり目の上に上げられている。肩ぐらいの長さの茶髪に制服のミニスカートから出てる細い白いあしはモデルそのものだった。 ハイソックスやリュック、持ち物ほとんどがブランド物でお金持ちというのが全身から伝わってくる。
人は見た目だけではないという期待は見事に裏切られ、毎日のようにクラスメートや先生の悪口を言っては見下したりしていた。
そういえば1度も話したことないな~…

「やりましょうか?」
翌日の放課後、委員会でパソコン室で頼まれたアンケート用紙の作成をしていると、後ろから声がした。
ちなみに学級委員。実を言うと1年の入学式で新入生代表の言葉を務めたこともあって私は優等生のイメージを持たれている。流れ的に学級委員に任命され、2年も引き続きなってしまった。別に嫌ではないけど。
同じ学級委員の1年の男子だった。
たしかこの人も私と同じ新入生代表を務めてた気がする。目立っているから私もなんとなく知っている。名前は確か…塚本恭介。
「いいよ悪いよそんな。」
「おれパソコン得意なんですよね。」
「でも…」
「俺がやったら一瞬で終わりますよ。ちょっといいですか。」
「は、はい。」
私は椅子から立ち上がる。
その男子は素早くキーボードを叩きはじめ、「こっちのほうがわかりやすいかな」「この日本語はちょっとおかしい。」なんてブツブツ言いながら図形や文字の配置などもさっさと選んで作って、あっという間に出来上がった。
「あとはコピーするだけ。」
テキパキとコピー機に紙をセットしてピピッとボタンを押す。
す、すげぇ…なんだこいつ
「何かやってたの?」
「中学の時生徒会やっててよくこういう書類とか作ったりしてたんですよ。」
「生徒会やってたんだ!」
この人よく見ると顔もまぁまぁイケメンなんだよな~なんて思いながら心臓の鼓動を感じながらこの甘酸っぱい瞬間を勝手に楽しんでいた。…でも…まだ恋ではないな。これは。
まだ。まだ。きっと。
コピー機の音が静寂の中鳴り響く。
「塚本くん…だよね。」
「潮美先輩ですよね。」
潮美。
どくん、心臓の音が大きくなる。
「あ、紙…できたかな。」
私は慌ててコピー機から出来上がったプリントを取り出す。出来立ての紙は温かい。
見やすくて、完璧である。
なんだか体が熱い。
きっとこの紙のせいだよね。


それから私は塚本くんと少しずつ話すようになった。学校の廊下とかですれ違うと挨拶をしてくれ、委員会でもよく話すようになった。
「潮美先輩も新入生代表やったんですね。」
「そうなの!」
「先輩は生徒会とかやるんですか?」
「やんないやんない勉強忙しいし。」
「ですよね~。」
「でも先生には誘われたよ、やんないかって。入学式のとき。」
「俺もです。期待されてるのかな。」
「あはは。そうかもね~。」
お互いのことも知るようになっていった。

「先輩!潮美先輩!」
はっと我に返る。そうだ。今委員会だった。
「ここ漢字間違ってますよ。」
「え?!」
本当だ。死亡が脂肪になってる。変換ミス。
「ありがと。」
「それと、ここのスペースおかしい。」
「は?!」
はとか言っちゃった。
「これ、自分で動かしたでしょ。これはこうして…」
テキパキとマウスを動かす。
「ほら。」
わーお。
「すごいね~!」
「これ、情報の授業でやりましたよ。」
「情報?何それ。」
「1年の授業で。」
「覚えてないわ~。」
「馬鹿なの?」
「授業ほとんど寝てるからさ~。」
「馬鹿なの?」
「心配ないさ~。」
「馬鹿なの?!」
「ばっ…」
バカって言われた!
「どーせ…バカだよ私は。」
「自分で認めた!うける。」
「何よ~。」
「先輩って先輩じゃないみたい。」
「は?」
「むしろ俺の方が先輩だわ。」
「ちょ…先輩は私!」
「どこが。」
「だいたい先に生まれたの私なんですけど!」
「時々思うんですけど先に生まれたからって何が偉いんですかね。」
「先に生まれた分世の中を長く見てる…ぎゃふ!」
「うける。」
足を引っ掛けられ、派手に転んでしまった。
「あきれた。やっぱ先輩には俺がいないとダメみたいだな。」
「偉そうに。」
言いながら顔が熱くなっていく。
ひとつだけわかったことがある。
私、塚本くんが好きだ。


「何ニヤけてんの?」
部活でぼーっとしてると同学年の女子に頭を小突かれた。
「帰るよ。」
「あ、うん。」
「どうしたの?今日ずっと上の空だよ。」
「え、うそ…」
「ま、いいけど。はぁ。」
「どうしたの?ため息なんかついて。」
「愛ちゃんがさ、Twitterでうちら先輩の悪口言ってるらしいんだよね。」
「え?!」
突然の言葉に一瞬何も理解出来なかった。
「怖いよね~。」
「表では全然そんな感じじゃないのに。」
そんな、まさかとは思ってたけど本当にそんな…
「でさ、ツイート遡ってわかったんだけど主に潮美の悪口言ってんだよね。」
「え…」
「直接名前はあげてないけど多分潮美のことだと思う。」
「ちょ、見せて!」
「ちょいまち~。」



下校中に大嫌いな先輩みつけて萎えた


ほんと先輩嫌い。早く卒業しねぇかなぁ…


部活先輩たちに精神やられてる


部活の先輩たちまじでくそすぎ


同級生全員帰って先輩たちと同じ空間にいるの
辛い


今日の部活は先輩たちが使えないことがよくわ
かった部活でした♡


先輩くそめんどいなー早く引退してくれ(怒)


頭が真っ白になる。
これほどまでに嫌っていたとは…
「それでこれが…」