「こはちゃんと出会えたのは28歳でした。
 それまではどこかどうでもいいと思って過ごしていました。
 だから…流されるままだったんです。
 でも。こはちゃんと出会えて、30近い、いい大人が女子高生なんかにって思われても仕方ないですが…。」

「え?28歳の頃?」

「……えぇ。そうです。
 その時に会った少女に心奪われて、どこの誰だか知らないのに次に会えた時に胸を張って会うことができるように仕事を頑張りました。」

 …うそ。

 だって、その時からキラキラした綺麗な顔だって私も覚えてるくらいの人で、絶対にモテたに決まってる。
 そんな人がちょっと話した女子高生のしかも私みたいな…。

「それで新入社員の中にその人を見つければ、これは神様も見ていてくれたんだと思ってもおかしくないでしょう?」

「だって…たまたま決めた会社で…。
 配属だって、たまたま…。」

「いいえ。
 会社はたまたま選んでくれましたが、そこからは配属も私の部下だということも私がお願いしたんです。
 こはちゃんは入社当時から頑張っていたので、その頑張りを見込んでという口実は信じてもらえました。」

 そんな風に配属が決まったなんて知らなかった。

 驚いていると目を伏せた貴也さんがたまに見せる寂しそうなどこかに消えてしまいそうな顔に見えて、つい袖をつかんでしまった。

 その手に貴也さんの手が重ねられて、貴也さんは口を開いた。

「私利私欲で人の人生を変えてしまったかもしれない。
 ガッカリ…しましたか?
 こんな人間なんだと知って。」

 消えてしまう。
 そう思えて思わず貴也さんにしがみついた。

「どうしました?」

 優しい低い声が体に響く。

「貴也さんが…消えちゃいそうで。
 私、貴也さんとお付き合いしなかったとしても、佐々木課長の部下で良かったと思っていましたよ。
 とても厳しい上司ですけど、厳しいのにもちゃんと理由があることも分かっています。
 失敗しちゃいましたけど、電話応対に自信が持てたのは佐々木課長のおかげです。」

「確かにこはちゃんに…中島さんに否定されてしまったら消えてしまいたいかもしれませんね。
 だからなかなか本当の気持ちを伝えられなくて申し訳ありませんでした。
 酔った勢いで気持ちを伝えるなどと…。」

 ううん。
 きっとこのタイミングで良かったんだ。

 私も貴也さんに惹かれて好きだって気づいて。

「これが私のこはちゃんの全てです。
 こはちゃんと出会ってから誰にも目がいきませんでした。本当です。
 今の私は誰よりもこはちゃんを大切に思っている自信があります。
 これで私の気持ちを信じてもらえましたか?」