「こはちゃん。
 甘えてくれませんか?」

「え?」

 突然の申し出に驚く。
 貴也さんは体を離して私の両手と手を繋いだ。

 抱きしめたままの会話よりも少し緊張して変な感じ。

「甘えてくれたら我慢します。」

「我慢って…なんかごめんなさい。」

「いいえ。私はこはちゃんと一緒にいるとわがまま放題になってしまいそうです。
 だからこはちゃんもお願いします。」

 貴也さんのどこがわがまま放題なのか分からないけど、自分が貴也さんにわがまま言うなんて…。

「言ってください。わがまま。
 誰にも言えないわがままを私には言ってくれるなら嬉しいです。
 好きだけどキスは嫌…なんて言って欲しいのは自分ですね。」

 言葉に詰まったように何も言わなくなってしまった貴也さんは目を伏せて俯いてしまった。
 その姿が心苦しくて、言われた通りに口を開いた。

「貴也さん。好きです。
 好きだけど…あの…キス…嫌なわけじゃ。」

 え…と上がった顔と目が合って、ものすごく恥ずかしい。

「だって突き飛ばされました。」

「そ、それは、ごめんなさい。
 それは、驚いて。
 あの…さっきのみたいなのじゃなくて…その…。」

 そこまで言うと離れていた体が近づいて微かに唇が触れた。

「これはOKでいいんですね?」

 すぐ近くで話す貴也さんに恥ずかしくて俯くと「はい」と小さな声を出した。
 するとその顔を上げさせられて、もう一度、柔らかく唇が触れた。

「好きです。こはちゃん。」

 吐息とともに言われた言葉は艶っぽくてクラクラしてしまう。

 それなのに何度も何度も唇は触れては離れてまた重ねられた。
 嫌じゃないと言った手前、微動だにできない。

 それに…本当に嫌じゃない…というか…。

 少しして何度も重ねられていた唇の異変に気付いて、体をぐっと押して離した。
 今度は突き飛ばすというよりも、引き剥がすみたいに。

 パクパクと口を出てこない文句がまどろっこしい。

「嫌でした?」

 子犬みたいに潤んだ目で見つめられて、これは貴也さんであって貴也さんじゃないんじゃないかって思ってしまうほどに…。

 クククッ。
 楽しそうな笑い声にきょとんとしていると頭を撫でられてそのまま引き寄せられた。

「すみません。
 こはちゃんが可愛いのがいけないんですよ。
 軽いキスだけじゃ物足りなくって、はむはむさせてもらいました。」

「は…むって!」

 やっとからかわれたんだってことに気づいて貴也さんをたたく。
 そのたたいている手を取られて、ちゅっと口づけを落とされた。

「ちょっとずつ慣れてくださいませんか。
 好きな人と一緒にいて軽いキスだけって変になってしまいます。」

 もう1度、キスされてクラクラと甘さに酔ってしまいそうだった。