「こはちゃんは私のことが…その……好きなんですか?」

 え?
 なんで今、この状況で!?

 やっぱり聞こえていたんだ。という思いとなんて答えていいのか分からなくて何も言えずにいた。
 すると貴也さんが言葉を続けた。

「すみません。昨日、聞こえてしまって…。
 盗み聞きなんて卑怯だと思います。」

 盗み聞きっていうか、あそこであんなこと言う宇佐美くんが悪いっていうか…。

 そんなこと言えるわけもなく、貴也さんの話をただ聞くだけだった。

「…卑怯だとしても嬉しかった。
 その場で言ってしまいたかったです。」

 え?何を?
 そう思っていると今一度強く抱きしめられて少し苦しいくらいの心春の耳に優しい低い声が届いた。

「こはちゃん。私も好きです。」

 え…っとそれはどういう。

「ちなみに今は酔っていません。
 本当はずいぶん前から酔わずにこはちゃんとお会いしていました。」

「え?だって。え?」

 驚き過ぎて顔を上げようとする心春の頭は手で胸に押し当てられて自由にできない。

「ダメです。今、顔を見るなんて。」

 胸を締め付けられるような声。

 どうしよう。好きって佐々木課長が?
 貴也さんと同一人物だって分かってるけど、なんというか酔ってないって…。

「だって「ヤダ」なんて駄々っ子みたいに言ってたし、それに…。」

「それは言わないでください。
 辱めに遭わせて葬り去りたいのですか?」

 だって。だって。

「だってさっきもまぶたにキスなんて…。」

 うわー。自分で言ってすごく恥ずかしい。
 でもあんなことを佐々木課長にされたなんて。

 もちろん貴也さんにされたって恥ずかしいに決まってるけど、佐々木課長はだって!だって!!

「酔っているふりをすれば、こはちゃんも貴也さんと呼んでくれるので嬉しかったです。
 酔っていないと佐々木課長と呼ばれて、どこか緊張しているようでしたから。」

 本当に酔っていなかったんだ。
 そして酔っていない佐々木課長にまで「好き」と言われた。

 自分の気持ちを知られていることだけでも頭が真っ白になりそうなのに、佐々木課長も好きだなんて……。
 気遣いの「好き」じゃなくて私の気持ちを知った上で「好き」って………。

 色んな事が急激に思い出されて頭が追いついていかない。

「こはちゃんの気持ちを聞くまで自分の気持ちを伝えるつもりはありませんでした。
 昨日、聞いてしまった時も実感がわかないくらいでした。
 しかし……もうあんな思いはこりごりです。」